ビジネス | ファーストチェス理論とは・・・?
POST:2020.03.17
最近、某SNSで『ファーストチェス理論』というものを拝見しました。
中学時代に野球部でファーストを守っていた管理人。
さらには趣味が将棋!!
何これ!!まさか管理人のために作られた理論!?
ということで、どんな理論なのかご紹介すると共に、感想などを少々。
ファーストチェス理論とは
ファーストチェス理論とは何でしょうか。
インターネットなどで情報を収集する限り、チェスにおいて「5秒考えて指した手」と「30分考えて指した手」が一致する確率はなんと86%!という理論だそうです。
「直感的に思いついた手」と、「しっかり考えた手」は実は大差がないということでしょう。
ビジネスにも置き換えることが可能で、かのソフトバンクの創始者である孫正義さんもこの理論の実践者だと言われています。
孫正義さんは、「どんなことでも10秒考えたらわかる。10秒以上考えてもわからない問題は考えるだけ無駄だ」としており、思い切りよく決断することにしているそうです。
ぐずぐず考えている暇があるならば、少しずつでも行動に移していきましょう!と解釈している方が多いようです。
古来から伝わる日本語風にするならば、案ずるより産むがやすしという感じでしょうか笑
こと、グループで話し合ってもなかなか結論が出ない会議の場や、考えるだけ考えて行動に移せないようなタイプの方にはオススメできる理論かも知れませんね!!
ファーストチェス理論の提唱者は誰・・・??
はい。
先ほどまで書いたのは、巷間で語られている「ファーストチェス理論」の要旨です。
なかなか面白いとは思いますが、はっきり言えば管理人的には違和感満載です。
基本的に、こういうビジネス理論のようなものはできるだけ原典や提唱者を明らかにした上でご紹介したいと考えていますが・・・
このファーストチェス理論については誰が提唱者なのかさっぱりわかりません!!
通常どれだけ眉唾な理論でも、「〇〇大学の△△教授の研究によれば」的なものがあるはずなんです。
まして、「理論」と呼ぶのであれば論文くらいはあってもいいもの。
しかしながら、ファーストチェス理論については誰がどんな目的でどのような研究を行った結果なのかが全然わかりません。
「あの孫正義さんも実践している理論です!」ということはわかりますが、そもそも誰が考えたのかすらわからない理論であるという点では、はっきり言ってうさん臭さすらあります・・・
もっと言うなら、孫正義さんが実践していることと「ファーストチェス理論」は何だか別物じゃないかという気もしますし・・・
将棋指しとして「ファーストチェス理論」を考える
趣味、とは言えども管理人も将棋指しの端くれです。
この理論が何だかおかしいことくらい5秒も考えずともわかります!!
色々とツッコミどころがある訳ですが、
まず、「5秒考えて指した手」と「30分考えて指した手」は違います。
「パッと見」の手と「しっかり読んだ手」が異なるなんてザラなんですよ。
熟練したチェスプレイヤーがアマチュア相手に指した対局ならばこの理論が成り立つ可能性はあるでしょうが、通常同レベル程度の相手との対局で直感的な手としっかり考えた手が86%もの確率で一致する方がおかしい。
そもそも、『手を考える』、『手を読む』とは「手の広さ」と「手の深さ」という異なる次元の処理を同時並行的に行い最善(と思われる)の手を導き出すことです。
手の広さとは:どの駒を動かすのがいいか悪いかを考えること。(Aという駒を動かすかBという駒を動かすかという選択肢についての検討)
局面によっては動かす必要のない駒が出てくるので、それについては考えない。熟練してくればこの「考えない部分」が増えてくる。
手の深さとは:その駒を動かした後の局面のパターンについて考えること。(Aという駒を動かした後の相手のリアクションはどうなるのかという検討)いわゆる「先を読む」という行為。熟練してくると、より深く先まで読めるようになってくる。
特にプロレベルのような方々は、手の広さも手の深さも様々に比較検討しながら「最善手」を目指して対局している訳です。
結果として、最初に「これだ!」と感じた手が採用されるケースもあるでしょうが、往々にしてそうでないケースも多いものです。
もっと言えば、将棋の局面(序盤・中盤・終盤)で「手の広さ」や「手の深さ」は異なってきます。
「定跡(セオリー)」が存在している序盤では考えることなくパッと見で判断して指すこともあるでしょうが・・・
つまるところ、この「86%」という数字がどこから来たのかがわからないのでどうにもおかしな理論にしか見えません。
経営判断とチェスの判断って一緒じゃない
チェスや将棋は『二人零和有限確定完全情報ゲーム』というものです。
ごちゃごちゃ書いてますが、ルールが定められており勝敗の基準も設けられている『ゲーム』の一環に過ぎません。
与えられる選択肢は非常に多いので、思考することを鍛えるゲームとしては非常に優秀だと思います。
しかし、選択肢は多いと言えども必ず「正解」はある。
しかし、ビジネスの現場というのは状況が全く違います。
与えられる選択肢は無数にあり、何が正解なのかわかりません。
もっと言うなら、どうなったら勝ちなのかという基準すらありません。
そのような環境において、「だらだら考えても時間のムダだからさっさと決断して行動に移しましょう!」などと言うのは無責任な話です。
なるほど、この理論とやらをSNSに投稿しているのは何となくそういう人たちです。
多少判断を間違えたとして命を取られる訳でもない『ゲーム』と判断を過てば命に関わる可能性すらある『実社会』を直結して考えるのは何だか危険な気がします。
もちろん、『ゲーム』が役に立たないと言いたい訳ではありません。 理論だなんだと言っておきながら提唱者すらわからないようなものを「さも事実」であるかのように装って、他人を行動に移すために喧伝するのは違うだろうと言いたいだけです。
孫さんは本当に決断が速く、行動に移るのがスピーディーなのかも知れません。
しかし、孫さんが身を置いている状況と私たちが身を置いている状況は違います。
確かに、だらだらと結論を先延ばしにするような会議はムダです。さっさと決断してから行動に移った方がいいとは思います。
「ファーストチェス理論」が役に立つ場面も実社会で多々あるでしょう。
しかし、実社会においては、『一致していない「14%」』の方が死活問題に繋がる場面もあるのです。
そのことは理解した方がいいと思います。
まとめ
色々調べた結果、残念ながら管理人のために作られた理論ではなかったようです。
もっと言えば、どうやら「理論」と呼ぶにはあまりにも危険な代物のような気もします。
チェスや将棋の熟練者が条件付きでやれば実証できそうな気もしますが、基本的にアマチュアでは再現性が確認できそうにありません。(少なくとも管理人程度の腕だと無理です)
ビジネスにおいても管理人は「熟練者」と言えるほど成熟しておりません。
謙虚にアマチュアとして「しっかり考えて」行動に移していきたいと思います!
長々と書きましたが、最後に日本を代表する将棋の棋士であり、実はチェスでも日本一のプレイヤーだった羽生善治九段の言葉をご紹介します。
「直感だけで指しているとほかの部分がダメになります。じっくり考えてしっかり構築していくという作業が雑になってくる」
結局トッププレイヤーこそ『しっかり考えている』ということなのかも知れません。
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