コラム | 粉飾残業~もぐら叩き的な改革は無意味~
POST:2020.01.23
ITmedia様に興味深い記事が記載されていました。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2001/23/news020.html
『少なすぎる残業に要注意! 組織を崩壊させる「粉飾残業」のあきれた言い訳と手口』
要約すれば、残業時間の過少申告を組織ぐるみで行っていたケースの紹介です。
働き方改革の目玉とも言えるのが残業時間の総量規制なのですが、組織的に隠ぺいされていた場合トップマネジメントとしてどう対応するのが正解なのでしょうか?
残業そのものは「悪」ではない
そもそも、「残業」は悪なのか。
まずは話をここからスタートしてみましょう。
近年の日本の大きな課題は「残業」を含めて「長時間労働」「過重労働」「労働生産性の低下」です。
これらの背景にあるのは、基本的に人員に対しての仕事量の多さやレベル感に合っていない業務受注などです。
「残業」というのはそれらの結果として生じている現象に過ぎません。
つまるところ、「残業」してでも終わらないくらいの業務量やレベルの高い業務が発生してしまっていることが問題なのです。
「残業」を含めた労働時間の長さを是正していく動きは賛成ですが、表出している現象にだけこだわってももぐら叩き状態に陥るだけ。
「残業」という現象がなぜ生じるのかを明らかにして、そこにメスをいれていかない限り単に『残業禁止』としてしまっても当該記事にて紹介されているように実態が闇に潜ってしまうだけでしょう。
残業は業務を終わらせるためある程度は必要なものでしょう。
個人的な体験談
まだ「働き方改革」が施行される前の話。
当時勤務していた会社が労働基準監督署から是正勧告を受けます。
実態把握と対策案の提示を求められた人事担当者たちは、全国の支店・営業所に対してアクションを起こします。
そこで把握できた実態は唖然とするしかないようなものでした。
「定時になると事務員が勝手に全員分のタイムカードを押す」
「所長が残業を認めないためあらかじめタイムカードを押してから残務に取り掛かる」
「支店で残業すると文句を言われるので、近くのファミレスなどで集まってミーティングをしている」
などなど。蓋を開けてみればタイムカードと労働実態は大きく乖離していました。
なぜこのようなことが起きていたかというと、営業目標未達だったため残業せざるを得なかったということでした。
社長は幹部会などで役員や部長を叱責します。役員や部長はマネージャー層を叱責します。マネージャー層は一般社員を叱責します。
誰も「なぜ営業目標に到達しないのか」「どうすれば目標に到達するのか」という点からは目を背け、とにかく手を動かす・足を運ぶという行為を強制。目標に到達していなければひたすら叱責。
そういう環境下で、「タイムカードを正しく入力しましょう」というもぐら叩き論を振りかざしても無意味です。
労働基準監督署からの指導・是正勧告に対しての対応だけでも大きな時間を投入しました。
しかし、把握できた実態に対して取れたアクションはもぐら叩き程度のものです。
一番の改善ポイントである「営業目標管理主義」と「叱責文化」の是正は後回しとなります。
何せ社長のワンマン文化が根強く、誰もそれに対して「NO」を言える環境ではなかったからです。
結果的に、様々な労働争議があちこちから噴出しました。
ある種当然の反応だったと思いますが、経営陣はなかなか社風改善をすることができず今でも苦労しているようです。
「働き方改革」が求めることとは
「働き方改革」が求めることとは何でしょうか?
誰のための何の制度なんでしょうか?
経営者が考えるべきはまずそこからではないでしょうか。
従業員が働きやすい職場を作る。誇りを持てる会社にする。
皆少なからずそのような考えで「働き方改革」に取り組んでいるでしょう。
しかし、対策はもぐら叩きレベルに終始しているというケースも多いのです。
「残業を禁止したら売上が伸びた」「週休3日にしたら生産性が向上した」
こういう成功事例も多いため、「残業禁止」「週休3日」という制度的な面がフィーチャーされることも多いです。
しかし、『なぜ残業が発生していたのか』『どうすれば生産性が向上するのか』という核心部分からは目を背けて表面的な体裁で制度を導入しているケースが至る所に溢れています。
「働き方改革」が求めているのは、「働き方の改革」です。
「長時間労働の是正」や「残業の規制」などは本来働き方を変えた結果に得られる副産物のはずです。
問題点を明らかにすることや根本部分から目を背けるのは愚策でしょう。
「働き方改革」が目指す姿というのを会社ごとに定めていかなければ、目先の制度論で話が終わってしまいます。
今回紹介した記事内での事例や、管理人の経験などはつまるところ経営者が「もぐら叩き」で満足してしまったに過ぎません。
本当にすべきは、もぐらを除去することです。
そのためにも、「なぜもぐらが発生するのか」「もぐらがもたらす害は何か」という部分をしっかりと考えていかなければならない。
「働き方改革」が成功するか失敗するかは企業の浮沈を握る鍵です。
せっかくの機会を捉えて、ぜひ自社の総点検をしていただきたいものです。