ビジネス | 『失敗まんだら』に学ぶ失敗の活用

POST:2019.11.27

突然ですが、あなたは最近「失敗」しましたか?
ついうっかり・・・なんてことで失敗することは誰しも経験があることです。

失敗というのは一般的にはダメなこととされますが、次への教科書としては非常に有意義なもの。
こういった失敗の事例を細かく集めて、データベースとして共有できれば今後同様の事例は減っていくのではないか?
製造業の現場などでは、ヒヤリハット事例などを共有し「次への教科書」として活かそうという行動は古くから取られています。

しかし、ちょっと待ってください。
本来「教科書」として機能すべき失敗の事例も、なかなか活かされていないのが現実です。
同じようなミスを繰り返したり、他の人もやってしまったりとなぜか失敗という事例は活かされないことが多い。

ここにメスを入れたのが国立研究開発機構科学技術振興機構(通称:JST)というところ。
https://www.jst.go.jp/

今回は、『失敗まんだら』を参考にしながら、「失敗」のメカニズムといかにして「失敗」を活用していくかということについてです。

失敗まんだらとは

先述の通り、失敗というのは誰しもが経験するものですし、そもそも人間というのは「失敗」する生き物です。
この「失敗」のメカニズム理解とその知識をデータベース化するために作り上げたのが『失敗まんだら』です。
http://www.sozogaku.com/fkd/inf/mandara.html

様々な組織や個人が「失敗」の原因究明とそれらを活かした対策に取り組むわけですが、なぜその取り組みが上手くいかないのか、どうすれば活用できるのかという点について踏み込んだものです。
JSTは失敗そのもののデータベースを構築しており、その分類方法などにこの『失敗まんだら』の概念が使われています。

一般的に、「失敗」の構造を理解しようとした際『原因』と『結果』という二つの側面で捉えることが多いです。
しかし、この捉え方は理解しやすく誰しもに受け入れられやすい反面「失敗」を正しく理解し、再発を防止するには物足りない捉え方になっていると指摘しています。
原因があれば必ず同じ結果に結びつくという訳でもありませんし、原因を取り除いたら必ず再発が防止されるという訳でもありません。
人間は、もう少し複雑にできていますので単純な『原因』『結果』という分類だけではあまりにも単純すぎて失敗の本質に迫れていないというのがその主張。

『失敗まんだら』に基づく『失敗知識データベース』ではより詳細な分類を行うことで失敗の本質をあぶり出そうと試みています。

『失敗まんだら』において失敗を理解するために最低限必要だとされる項目は6つあります。

事象:どんな失敗が起こったか
経過:時間の経過としてどう進行したか
原因:どのような推定原因があるか
対処:どのように対処したか
総括:まとめ
学習事項:その失敗から何を学んだか

これらの6項目を書くことでようやく失敗を伝達し知識化することが可能となるというのが『失敗まんだら』の主張です。
「失敗」をデータベース化して活用するためには、『原因』『結果』という大まかな情報だけでなく細かく理解していく必要があるということですね。

さらに、失敗を紐解いていくと、必ず『原因』と『行動』そして『結果』に分類されています。
原因となるきっかけがあって、失敗に繋がる行動を起こし、失敗という結果に至る。
この『原因』『行動』『結果』を体系化してシナリオとして理解していくことが『失敗まんだら』の肝になっている部分です。
細かく見ていきましょう。

『原因』の分類:『原因のまんだら』

第1レベルのキーフレーズが10個。それらに続く第2レベルが27個あります。
つまり、最初は第1レベルのキーフレーズから確認していき、該当する第1レベルのフレーズから続く第2レベルのキーフレーズを確認することで原因を分類していくことになります。
なお、失敗の原因については大分類として「個人に起因する原因」「個人・組織のいずれにの責任にもできない原因」「組織に起因する原因」「誰の責任でもない原因」とがあります。
なお、第2レベルのキーフレーズについての解説は割愛いたします。

個人に起因する原因

●無知:知識不足、伝承の無視、など
失敗の予防策、解決法がすでに世の中に広く知られているのにもかかわらず、本人のみが知らなかったゆえに引き起こされた失敗。
●不注意:理解の不足、注意や用心の不足、疲労や体調不良、など
十分に注意さえしていれば防げたはずの失敗。気掛りなことがあったり体調不良や多忙などのときに起こしがちな失敗
●手順の不遵守:連絡不足、手順の無視、など
決められている約束事、広く知られている習慣や規則を守らなかったために起こす失敗。
●誤判断:狭い視野、誤った理解、間違った認知、状況に対する誤判断、など
状況を正しくとらえなかったり、正しくとらえたものの判断を間違えたことにより起こす失敗。判断基準の間違い、決断に至る手順の間違い、判断時の考慮に入れるべき要素の欠落なども含まれる。
●調査・検討の不足:仮想演習の不足、事前検討の不足、環境調査の不足、など
決定に至るまでに、十分な検討をしなかったことによる失敗。優秀な決定者であれば、自己判断が間違うことまでを事前に想定して対応策を配慮するものである。

個人・組織のいずれの責任にもできない原因

●環境変化への対応不良:使用環境の変化、経済環境の変化、など
新しい企画を始める場合などには、ある外的条件を想定してスタートするが、当初想定した条件が時間の経過と共に変わってしまい、その変化に十分対応できずに生ずる失敗。

組織に起因する原因

●企画不良:権利構築の不良、組織構成の不良、戦略や企画の不良、など
企画や計画そのものに問題がある失敗。企画が前任者や上司の発案によるものであったりすると、往々にして失敗の責任を下位の実働部隊が取らねばならないことがある。
●価値観不良:異文化の理解ができていないこと(例えば生活習慣の違いとか、心情の違いなどでそれに適応することができないようなものまでを含む)、組織不良、安全意識不良、など
価値観が周りと食い違っているときに起きる失敗。組織内のルールばかりを重視して、自企業の利益を優先させ過ぎる会社が、一般に守るべきルールを踏み外した結果起こる失敗例などがある。
●組織運営不良:運営の硬直化、管理の不良、構成員の不良、など
組織自体が、きちんと物事を進めるようになっていないために起こる失敗。トップや上司には、そのような組織運営を修正してきちんと機能すべき責任があるが、その点を見逃したり、認識できないまま問題を大きくするケースもある。

誰の責任でもない原因

●未知:未知の事象が発生すること、異常事象が発生すること、など
世の中の誰もが知らなかった現象が原因である。未知を原因とする失敗に遭遇すると、それについて徹底的に考えることで失敗を防ぐ手段を発見し、その集積で科学技術を発展させてきたのが人類の歴史でもある。未知による失敗は、進歩を生み出す糧ともいえる。

このように、原因分類だけでも詳細かつ網羅的です。これを『原因のまんだら』と呼びます。
例えば、「無知」という第1レベルのキーフレーズは「知識不足」や「伝承の無視」という第2レベルのキーフレーズに繋がっていると理解していただければ。

この中から当てはまる原因を探していき次の『行動のまんだら』にて原因がどのような行動に繋がったのかを見ていくことになります。

『行動』の分類:『行動のまんだら』

失敗行動の分類項目は、第1レベルのキーフレーズ10個、第2レベルのキーフレーズ24個で構成されています。
大分類は『物への行動』と『人への行動』です。

物への行動

●計画・設計:計画の不良、他からの設計をそのまま使ってしまう流用設計、など
この中には、模倣設計やライセンス生産なども含まれる。
●製作:ハード製作中の行動、ソフト製作中の行動、など
この中には、機械・機器・物質の製造や建築・土木工事などが含まれる。
●使用:機械の運転や使用・保守や修理・輸送や貯蔵・廃棄、など

人への行動

●定常操作:手順の不遵守、誤操作、など
通常時に人が物に対して行う行動であり、不操作も含まれる。
●非定常操作:操作の変更、緊急操作、など
通常とは異なる人の物に対する行動であり、緊急時の起動・停止などが含まれる。
●定常動作:不注意動作、危険動作、誤動作、など
通常時の人自身の物理的動作であり、接触、転倒、落下、不動作などが含まれる。
●非定常動作:状況変化時の動作、体調不良時の動作、など
通常とは異なる人自身の物理的動作である。
●誤対応行為:連絡不備、自己の保身のための間違った行為、など
この中には、不連絡、隠蔽、看過などが含まれる。
●不良行為:倫理や道徳の違反、規則の違反、など
正しくない間違った行為を指す。近年社会的関心を引いているコンプライアンス(法令遵守)の考えの正反対の行為である。
●非定常行為:変更、非常時行為、無為、など
通常時とは異なる幅広い行為であり、組織変更、計画変更、パニックになる、不作為などが含まれる。

原因⇒行動とくれば次は『結果』です。
失敗まんだらでは、『原因』⇒『行動』⇒『結果』それぞれのまんだらを通じて失敗を体系化していくことになります。

『結果』の分類:『結果のまんだら』

結果の分類項目は第1レベルのキーフレーズ10個、第2レベルのキーフレーズ29個で構成されます。
大分類は「物への結果」「外部への影響を伴う結果」「人への結果」「組織・社会への結果」「これから必ず起こる結果」「起こるかもしれない結果」となっています。

物への結果

●機能不全:諸元未達、ハード不良、ソフト不良、システム不良、など
ハードウエアやシステムなどの機能が達成されない場合で、性能などの未達成、性能不良、不作動などが含まれる。
●不良現象:機械現象、熱流体現象、化学現象、電気故障、など
それ自体は軽微な現象と考えられがちであるが、重大事故につながる引き金となることもあり注意が必要である。振動、摩耗、発熱、燃焼、漏電などの現象が含まれる。ここで、特に「熱流体現象」項目を取上げたのは、近年技術上の問題となる事象が熱と流体に分離できないか、双方にからんでいることが多いからである。
●破損:劣化、減肉、変形、破壊と損傷、大規模破損、など
ミクロの材料組織の破壊からマクロな破壊までの、いわゆる”物がこわれる”現象であり、高温劣化、腐食、クリープ、沈没、墜落などが含まれる。

外部への影響を伴う結果

●二次災害:損壊、環境破壊、など
機能不全、不良現象、破損を一次的結果として、二次的に発生する比較的大規模な結果である。発熱、燃焼などによって発生する火災や爆発、破壊などによって生ずる漏洩や環境汚染などが含まれる。

人への結果

●身体的被害:人損、発病、負傷、死亡、など
人自身が受ける身体的な被害である。
●精神的被害:精神的損傷。
これには第3レベルとして恐怖心の植付け・記憶喪失・自信喪失・関係者悲嘆、などが含まれる。

組織・社会への結果

●組織の損失:経済的損失、社会的損失、など
直接・間接に企業などの組織が被る損失であり、損害賠償や信用失墜、倒産などが含まれる。
●社会の被害:社会機能不全、人の意識変化、など
国民、消費者など広く社会が受ける被害であり、インフラの機能不全、行政・企業不信、購買行動の変化などが含まれる。

これから必ず起こる結果

●未来への被害:未出来(しゅったい)の結果、予想可能な結果、予想不可能な結果、など
環境問題による地球温暖化、現在は大きな問題になっていなくても将来顕在化する可能性があるものなど、将来大きな問題として必ず起こる結果である。この顕在化は、内部告発によって事件として取り扱われることが多い。

起こるかもしれない結果

●起こり得る被害:潜在危険、ヒヤリハット、など
これらは起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。同じ要因があっても発生が確率的なもので、その発生確率の低いものである。

『失敗まんだら』に学ぶ失敗の活用法

ここまでは『失敗まんだら』の概要について述べていきました。
正直、細かい紹介まではとてもではありませんが出来かねますので、興味を持たれた方はぜひ原文を読まれてください。

重要なことは、『失敗まんだら』を理解することではなくて、失敗にどう向き合うかです。
『失敗まんだら』は失敗をデータベース化するにあたって生まれた分類の技術的観点でしかありません。
「失敗」という事象を語るのに、ここまでの分類が必要になるとはなかなか衝撃的ではありますが・・・
ここまでやってようやく正しく「失敗」を理解することができるということでしょう。

ちなみに、『原因』⇒『行動』⇒『結果』という流れで整理していくことになりますが、面白いのが『原因」にしろ『行動』にしろ『結果』にしろ一つではない点でしょう。
色々な要件が重なって「失敗」という結果に繋がります。
例えば、「機械が壊れた」という結果も「原因」と「行動」を分析していけば、様々な原因や行動が複雑に絡み合って発生していることがわかると思います。
これらを体系的に分類していくのは実際問題として至難の業でしょう・・・

しかし、この分類をしっかりとしていくことが「失敗」を単なる情報に終わらせるのではなく、再発防止への教科書として機能させる第一歩となるのです。

失敗が発生した⇒とりあえずヒアリングした⇒本人に反省させた
では、他者や社会への繋がりは出てきません。本人のミスだったとしてもそれがなぜ発生したのか、さらにその背景には何があったのかという細部を理解していなければ再発防止へと繋がらないのです。

どのような大きな組織であれ、どれだけ優秀な人物であれ失敗は必ず起こります。
失敗のキーファクターは何だったのか。
どういう行動を取ったらマズかったのか。
失敗はどのような結果をもたらすのか。
こういった部分をまずしっかりと理解した上で、活用していかなければいけないということでしょう。

もちろん、『失敗まんだら』は失敗の構造を明らかにし体系化するための一つの技法に過ぎません。
大切なのは、失敗を組織で共有し、再発防止に取り組む姿勢そのものです。
毎日の事例報告でも、毎月の会議での共有でもデータベース共有でも何でもいいのですが、「失敗」を明らかにしてその原因究明と対策から逃げないことは何よりも大切なことです。

なお、『失敗まんだら』を上手く活用すれば、どんな小さな失敗も分類することが可能です。
例えば、PCに飲み物をこぼした・・・みたいな些細なミスでも分類できます。
分類して共有していけば、同じ失敗を防げる可能性は高まっていきます。
このように、少しずつ先人たちの失敗に学びながら人も組織も成長していけるのです。

『失敗まんだら』が皆さまの失敗を貴重な「財産」に変える一助になることを願っています。

『失敗まんだら』の詳細はこちらから⇒http://www.sozogaku.com/fkd/inf/mandara.html

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