コラム | 罰では人は動かない〜障害者雇用水増し問題を考える〜
POST:2018.09.12
ここ数日、ニュースや新聞紙面でも話題となっている「障害者雇用水増し」問題。
障害者雇用の現状が改めて浮き彫りになったと同時に、「三権」全てで水増しが発覚するという異常事態に陥っています。
かつて、障害者雇用促進を担当していた立場からすると、憤りを越えて呆れるしかないのですが・・・
この機会に少し考えてみようと思います。
法定雇用率とは
まず、今回の問題の背景となった「法定雇用率」とは何でしょうか?
厚生労働省のHPにはこう記述があります。
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条1項)
現在の民間企業の法定雇用率は2.2%。従業員を45.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇う「義務」が発生します。
官公庁は法定雇用率が2.5%となっており、民間企業よりも高い目標が課されています。
なお、従業員数や障害者雇用の状況は毎年報告することになっています。
そして、今夏問題になったのは、省庁、地方自治体を含む「三権」全てで障害者雇用の水増しが行われていたことが発覚したからです。
ちなみに、「三権」とは「立法」「行政」「司法」です。
立法:この場合は国会です。つまり、衆議院と参議院など。
行政:省庁ですね。財務省とか国税庁とかああいうやつです。
司法:裁判所です。
立法府は法律を作り、行政府はその法律に基づいて運営し、司法府は法の番人として機能するべき。
こうして、互いの緊張状態を作り出すことで権力の暴走を防ぐようにしているのです。(これを三権分立といいます)
残念なことに、本来民間企業のお手本となりモデルを示し、指導していかなければいけない官公庁などで水増しが発覚してしまったのです。
罰則があります
なお、一定数以上従業員がいる企業にとっては、障害者を雇用することは義務ですので当然ペナルティがあります。
雇用率に満たない企業(従業員数100名以上)に対して、障害者雇用納付金というものを納めるように義務付けています。
これは、義務を達成している企業とのバランスを取るために設けられています。
逆にきちんと達成している企業には「障害者雇用助成金」や「調整金」を受けることができます。
個人的には、これがよくないのではないかと思っています。
なぜ、罰則がよくないと思うのかについては大きく2点あります。
・そもそも、「罰」は行動を誘引しない
・障害者雇用が「罰」のように感じる
それぞれ詳述していきます。
「罰」は行動を誘引しない
あなたがミスをしてしまった場合。
素直に言い出せますか??
何のペナルティもなければ言い出しやすいですよね。
では、ミスをしたら「罰金」となっていたらどうしますか?
できる限りバレないようにするのが自然な心理です。
たったこれだけのこと、少し考えればわかります。
でも、今回はミスを隠していたのが、普段はミスをグチグチとがめてくる嫌な上司だったという感じですかね。
「罰」は行動を誘引しないと書きましたが、正しくは「負の行動に誘引する」でしょうか。
障害者雇用が「罰」のように感じる
あくまで個人的な印象に過ぎないかとは思いますが、「罰」を設けるという時点で、その行為(今回で言えば障害者雇用)そのものが「罰」になっているような印象を受けます。
「やらないと怒られるから」やってるに過ぎないのであれば、本当の意味での「ダイバーシティ」や「ノーマライゼーション」の実現は難しいのではないかと思います。
もちろん、障害者である以上全ての業務を「みんなと同じように」行うのは難しいかも知れません。
しかし、彼ら(彼女ら)にも長所はありますし、抜きん出て得意なこともあります。
そういう部分に焦点を当てれば、必ず戦力として活躍してくれると思っています。
何か、お金に変わる誘引手法はないものですかねえ。。
まとめ
今回の件、関係機関は猛省して欲しいです。
民間でしっかりと雇用に取り組んでいる企業も沢山ありますし、ほんの少し雇用人数が不足していたため納付金を納めた企業も沢山あります。
何よりも、就労環境を求めている障害者に対して失礼です。
詳しい経緯や原因、対策については今後の動向を見守ることにしますが、本当にあってはいけないことが起きたと思います。
今回関与していた機関から出されたデータや資料には基本的に信憑性がないということにまでなりかねませんからねえ・・・