ビジネス | 有給休暇の強制取得??

POST:2018.09.18

2019年4月から、改正労働基準法の適用により有給休暇の取得義務化がスタートします。
年10日以上有給休暇が与えられている社員については、その内5日分は本人の希望を元に必ず休ませなければならなくなります。

違反した場合、罰金が課せられるとあってある程度の有休取得率向上は見込めるでしょう。

しかし、なんだか変です。
諸手を挙げて賛成!とは言いづらい。
その違和感の元を掘り下げてみることにします。

有給休暇はそもそも気兼ねなく取るもの

そもそも論になって恐縮ですが、有給休暇というのは労働者に与えられた「権利」です。
労働基準法に則れば、6ヶ月以上継続して勤務しておりその間の8割以上の出勤率であれば年間10日分の有給休暇が付与されます。

この有給休暇については、「時期指定権」という権利があり基本的に会社側は「取得を拒否すること」や「日にちを変更させること」などはできません。
基本的に、と書いたのは会社側にも「時季変更権」という権利があって繁忙期などやむを得ない事情がある場合に限り有給休暇を取得する日にちを変更させることができるからです。

この時季変更権が認められる要件は結構ハードルが高いため、通常有給休暇取得を妨げる事象は発生し得ないものです。

つまり、制度上は「休みたい時には休ませなければいけない」わけです。
となると、なぜこんな「強制取得」という手段に出なければいけないのか・・・?

実は日本の年間休日は多い方

日本という国は、欧米等先進諸国に比べても実は年間休日は多い方です。
というのも、「祝日」が多いんですね。
年間に17日も祝日がある国は先進国では日本くらいなものです。
土日祝日に年末年始、GW、お盆休みなどを加味すると、だいたい年間休日は120日前後になります。
単純に考えて1年の内、3分の1は休みなんですね。
これに加えて有給休暇があるわけですからね。

本当に額面通りに休めているか、という疑問が残りますけれども・・・

違和感の源泉

さて、外国の話に移りましょう。

バカンス大国フランスは年間の祝日は9日ですが、有給休暇が30日あります。 しかも取得は100%です。
また、日本は批准していませんが、国際労働機関は「有給休暇は連続で取得すること」と定めています。そのため、外国(主にヨーロッパ諸国)では有給休暇=バカンスという認識で連続して取得します。

日本は、ここ数年有給休暇取得率が50%前後をウロウロ。
70%、80%となるといつになったら達成できるのかさっぱり見通しも立ちません。
こんな状況のため、労働基準法を改正して少しでも取得率を上げようと考えているのでしょう。

が、です。

有給休暇取得を強制にしたところで、実態が変わるのか??
管理人の違和感の源泉はこれです。

「労働生産性」という言葉があります。
就業1時間あたりの付加価値のことですが、まあ単純に1時間あたりの生産性と思えばいいでしょう。
で、OECD加盟35カ国中20位というのが日本の現状です。
主要先進7カ国の中ではなんと最下位です。
しかも1970年からずっと最下位です。。
つまり、バカンス大国フランスにも負けている・・・
「過労死」という言葉が国際化しつつある中、日本の労働生産性はまだまだと言わざるを得ません。

GDP世界3位という経済大国でありながら、非生産的な活動を「長時間」やって稼いでいるにすぎないというのが現実です。

この現実を直視しないと、変えていくべきところを見誤ってしまいます。

鑑みるべきは、有給休暇ではない

さあ、ここで構造的な問題を洗い出してみましょう。

1 日本は、労働生産性が上がっていない
2 また有給休暇制度を含めメリハリのある働き方ができていない

となります。

解決すべきは、「1」の方なんですね。
有給休暇の強制取得で解決の一端にくらいはなるかも知れませんが、根本的な問題解決には至らない。

また、断言してもいいですが有給休暇を強制取得とすることで、制度を悪用する企業は必ず出てきます。簡単に言えば、年間休日を減らされてしまう可能性が高い。
「120日の年間休日でパフォーマンスを出すもの」という固定観念が上層部には根強いと思います。
だったら年間休日を5日減らしてしまおうとなる企業は必ず出てきます。(しかも中小企業は特に)

そうなれば、実質無意味な制度となりますよね。(それを禁止している条項があるとも思えませんし)

そもそもですが、有給休暇取得を妨げているのは制度上の問題ではありません。
「有給休暇を取得すること」を悪いことだとしてしまっていることです。
つまり、精神論が支配している。
だから、有給休暇を取得するのに「引け目」を感じる人が多数派となっているんです。
この引け目の原因となるのが、業務の属人化です。

自分しかできる人がいない・・・
自分が休めばチームに迷惑がかかる・・・
こうなっているからむやみに休めない、と感じてしまう。

本来、業務が属人化することに組織としてのメリットはあまりありません。
チーム内で情報が常に共有され、やり方が統一されていれば問題ない話です。
こういう「標準化」をサボった上層部が悪い。
きちんと共有すべきことを共有し、一元化や統一できることを行っている組織の方が強いんです。

また、無茶な納期で業務を遂行しなければいけなかったり、必要な人員を補充しないため無理やりにでも働かざるを得ない状況に陥っている場合も多々あるかと思います。

これらは、「有給休暇」の取得を義務化したところで改善されることはないと思います。

問題の一番根っこにあるのは、日本の競争力が低下しているという現実です。
残念ながら、かつてほどの競争力はすでに失われています。

少ないパイを奪い合うことになるので、あちこちで消耗戦が繰り広げられている。
結果、長時間労働や残業代の未払いが常態化している。そうしてでも人件費を圧縮しないと競争に太刀打ちできないからです。
こんな状況下で、たかだか5日分の有給休暇を強制取得させたところで、何が変わるでしょうか?

本来、「負」のインセンティブで動く場合動機づけとしては非常に弱いです。
ルールや規則で制限するのは「負」のインセンティブです。
ルールがあるせいで、知性を働かせることなく「従えばいいんでしょ」となる。

こんな組織を量産することに何の意味がありますか?

まとめ

長くなりましたので、まとめます。
有給休暇取得義務化はその場しのぎの対策です。
国も企業も「何かやったつもりになれる」だけです。

根本的に解決すべきは、「労働生産性」の低さであってそのために推奨すべき施策は別物です。
有給休暇については、やたらルールや規則で何とかするのではなく、企業努力や競争を促すような仕組みを作っていくべきではないでしょうか?
本来、規制すべきは「長時間労働」や「賃金未払い(サービス残業)」や「休日出勤」など生産性を下げる要因になるものの方です。

そんなことまで禁止されたら倒産しちゃうよ!という企業については、別に不要だと思うのは管理人だけでしょうか?

働き方改革、というのならもっと鋭くメスを入れて欲しいものです。
きっちり休暇を取りながら日本より高い生産性を上げている国をもっと研究する方がいいかも知れませんね。

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