コラム | 派遣社員3年勤務なら3割賃金増へ。厚労省が指針まとめる
POST:2019.07.26
何だかニュースの見出しみたいなタイトルになってしまいましたが・・・
タイトルの通り、厚生労働省は勤務年数や職務能力に合わせた賃金を支払うように指針をまとめました。
具体的には、派遣社員が同じ業務で3年経験を積み、業務内容が変われば初年度よりも3割賃金を上昇させることなどが指針として定められています。
「働き方改革」が叫ばれて、段階的な運用が始まった昨今ではありますが本当の意味での「働き方改革」は賃金の問題なのでしょうか?
全雇用者に占める派遣社員の割合は2.5%ほど。
しかしながら現在、日本で働く非正規雇用の割合は約37%。
基本的に、非正規雇用の割合が高いというのは知っておいて欲しい知識です。
管理人は非正規雇用という働き方を含めて、多様な働き方が認められる社会の方が重要だと考えています。
別に正規雇用で働きたいという人だけがすべてではないでしょうから。
そのためにも、同一労働同一賃金は必須ですし、ワークシェアや短時間労働の導入なども不可欠だと思います。
頑張って働いて「経済成長」という単純な図式はもはや崩れて久しい。
これからは、そこそこ働いてそれなりの経済水準という暮らし方でいいのでは?
そういう観点から進む働き方改革になってもいいのではないか?
「同一労働同一賃金」と非正規雇用の役割
そもそも論になってしまい恐縮ですが、日本に非正規雇用労働者がここまで多いのは「同一労働同一賃金」が徹底されていないからです。
2020年4月からは「同一賃金同一労働」を制度として推進していく方向ですが、そうなると「非正規雇用」という働き方そのものがどうにも怪しくなってくる危険性もあります。
つまり、安価で雇用することができるという雇用の強みがなくなるからです。
安価であるが故に非正規雇用率が高いということが言えるわけで、この強みが消えた場合どのようなことが起こり得るのか。
今回の派遣労働者の指針を例に取ってみます。
派遣労働者に3割増の賃金を支払うために派遣会社は派遣先企業への請求金額を上げる必要が出てきます。
派遣先企業が果たしてすんなりそれをOKするか、というとどうにも疑問符がついてしまうような気がします。
もっと具体的に言えば、3年未満で派遣先から契約終了となるケースが増加のではないか。
なにせ、「安い」から使っていたのが普通に雇用するのと変わらない程度の賃金に増加する訳です。
派遣先企業としたら、そこまでして契約を更新するなら直接雇用しよう!
となるのが理想ですが、残念ながら契約終了ということになりそうな予感がします。
そうすると、これまで「派遣社員」として働いていた人たちの雇用はどうなるのか。
派遣社員の給料は正規雇用に比べると2割ほど低いのが現状で、その格差是正のための施策としての指針ということですがどれほどの実効性があるのかは疑問です。
しかも、この指針によれば今回賃金アップの対象になるのは「非正規雇用」の中でも「派遣社員」のみということになります。
アルバイトやパートタイマー、その他の非正規雇用で働く人にとっては何の救済にもなりません。
結局、「同一労働同一賃金」を推進していくしか「非正規雇用」全体の救済にはつながらないような気がします。
しかし、それだと「非正規雇用」で働く人たちの雇用がどこまで守られるのかが不透明な気もするわけで・・・
2020年以降の景気はどうなる・・・?
結局のところ、景気がよければ「雇用は増える!」し「賃金も上がる!」はずなんですよね。
しかしながら、深刻な人手不足にあえぐ状況は2020年以降収まるでしょう。
オリンピックも過ぎたあたりで雇用の状況は一変していくのではないかというのが個人的な予測です。
一部の企業を除けば「買い手市場」になっていくでしょう。
要するに、不景気になっていく。
景気が悪ければ企業は「雇用」も「賃金」も上げません。
「とりあえず人手が欲しい!」という場面で使われていた「非正規雇用」もあまり『うま味』がないとなると結果として失業率は上がる可能性も高いかなと思います。
そもそも現状が「好景気」なのかとか、「消費増税」は大丈夫なのかとか色々とありますが、雇用と賃金は景気が悪ければ悪化するのはしょうがない話です。
希望があるとすれば、2020年4月から「働き方改革関連法」が全企業に適用されます。(現在は大企業のみ)
ここで一回「働き方」というものについてしっかりと立ち止まって考えていくことが重要なのではないでしょうか?
「同一労働同一賃金」が原則としてあり、その中で「フルタイムで働く人」「短時間働く人」がいる。
ワークシェアリングや副業などもっと柔軟に「働き方」が示されていいかと思います。
個人的には、セーフティネットがきちんと整備されて、色んな働き方が許容される世の中が望ましいと思いますが、果たしてか。
まとめ
今回厚生労働省がまとめた指針はどういう方向性に作用するでしょうか?
「派遣社員の賃金がアップした!」という正の方向に作用すれば大成功でしょうが、「派遣社員の派遣先が減少した!」という方向性に進むなら考えものです。
また、今後「同一労働同一賃金」が実施されれば「非正規雇用」とか「派遣社員」という垣根が実質的に無意味になります。
その時に、社会が「多様な働き方」を選択肢として提示できるようになっているのが理想です。
しかしながら、「賃金増の負担」に耐え切れず雇止めや契約終了という形で失業してしまう人が増加する懸念も個人的には持っています。
「派遣社員の待遇改善」や「同一労働同一賃金」という厚生労働省が示している方向性は恐らく間違ってはいないと思います。
しかしながら企業側にその方向性に耐えうる環境があるのか、という部分は非常にデリケートな問題だとも思います。
注意深く今後の景気動向にアンテナを張っておきたいものです。